隣組による共同募金の強制割当

共同募金は、終戦直後の1947年に始まりました。自発的な寄付の文化、という謳い文句の共同募金ですが、国会の議論を見てみると最初から「地域の人間関係による強制」が問題になっていたようですね。

1948年の衆議院議事録(厚生委員会)を見ると、当時は(終戦により)解散状態だったはずの隣組(町内会の前身)の人間関係を通して強制的な割当と徴収が行われている実態が取り上げられています。

共同募金の強制徴収に関連する部分の大意をまとめると、以下のような感じでしょうか。


松屋委員:地方の実情として一旦解散されたはずの隣組の形式をまた復活させたかのように、かつて隣組長であった者を通して各戸に割当強制寄付の要求がされている。おそらく全国各地で同じことが行われていると思う。私もこうした訴えをしばしば聞くので、共同募金の強制割当寄付ということは絶対に禁止するよう各地方で徹底して欲しい。

木村説明員(厚生事務官):強制にわたる点があったことはまことに遺憾に存じる。割当ではないので、各戸に勧誘いたしますというふうにしている。各戸に勧誘しないと、自発的に持って参るのも大変なので、できるだけ各戸に勧誘するようにはいたしている。これは強制的にならないようにしたい。この点については従来もその旨通達しているが、厳に戒めるようにしたい。

松屋委員:社会局長のお言葉に勧誘はしなければならない、とあるが、その勧誘がはなはだ危険だと考える。ことに隣組長であったような者、あるいはその近所の者からいわゆる勧誘という意思ではあるかもしれないが、日常生活の常識で考えて、付き合いというものが義務的なものに考えられている今日の社会通念からしても、あの人が来たらどうしても出さなければならない、ということがあるのではないか。私が見た例では、強制割当が来たために必要なものを質に入れて寄付を出さなければ、という人がいたので、少なくとも寄付は自由意思に基づく寄付にすべきであろう。勧誘をするということ自体が、強制に堕する点が多々あると考えるので、少なくとも隣組などという過去の形式を通しての恩誼、情館に関連あるような勧誘は絶対に避けるべきと考えるが、いかがか。

木村説明員:旧隣組などの組織を使うことは適当ではないと思うが、やはり社会事業というものにはこれだけの金が必要である、ということをまだ国民に十分徹底していないので、それを徹底する措置を講ずる必要があると思っている。従って民生委員あるいは民生委員に協力する方々のご協力を願って、社会事業についての国民の理解をいっそう深めるようにしたい。その意味において、先ほど勧誘と申したが、ご説明にあがるということはある程度現在においてはしなくてはいけないのではないか、と考えている。


隣組や町内会のような組織を使って共同募金を集めてはいけない、そんなことをすれば「強制」になるということは、最初から「わかっていたこと」なんですよね。

それにしても、共同募金では最初の時点で既に「隣組を通した徴収」「割当的な寄付の強制」が行われていたわけですか。町内会を通して「目安」などの名で「割当額」を突きつけられ強制的に徴収される現代と、まったく同じ構造です。

寄付、募金というものにおいて一番大切なことは何でしょうか?
「資金を集める」ことでしょうか? 私は、それは違うと思います。まず「賛同する人が自由に参加する形」を徹底すること、「強制性」を徹底的に排除することでしょう。これなくしては、そもそも「賛同者が集まって自らが広めたい理念や運動のために行う募金運動」、「賛意の表明、応援したい活動への経済的協力としての寄付」というものは絶対に成立しないのですから。
「地域の人間関係による強制」があるのなら、まず「(地縁に基づく)公的な枠組みでの勧誘」をやめる。そして、再発防止策を徹底してから「自発的な賛同者・参加者による募金活動」を始めるべきでしょう。共同募金という新しい枠組みで募金運動を始めるのなら、なおさらです。

しかし、それをせずあくまで「勧誘」を優先してしまった。共同募金は、最初から(断りにくい人間関係を前提とする)割当寄付の強制(「勧誘」)ありきだったわけです。その結果、共同募金は「寄付の文化」ではなく「行政の圧力による強制動員と強制割当の構造」を広めてしまいました。
「確信犯」だったのでしょうけどね……

その後、町内会という形で隣組が復活してきますが、共同募金会(社会福祉協議会)や行政は町内会を公然と「勧誘」に悪用することで募金活動や寄付を「強制」する体制を作り上げ、今日に至っています。

(多くの場合、社会福祉協議会の会長でもある)市町村長や役所の担当課から、町内会に「目安」などの形で割当額が示され、上納させる仕組みが作られているんですよね。そうした行政が主導する強制的な動員体制の下で各地の町内会では、

状況が作られています。「希望者が自由に参加する」はずの募金活動が「断りにくい行政・地縁団体を通して無理やり巻き込まれる」強制動員・強制徴収にすり替えられているわけです。

従来から戸別募金については、半強制的な割当寄付の形になつているという批判もあり(1961年厚生白書

60年以上前の懸念通り、「強制に堕」し続けてきた共同募金。「寄付の文化」を根底から踏みにじり壊してきた共同募金。これからも「キョーセーではありません!」と叫びながら「断れないよう町内会に集めさせて強制」し続けるつもりなのでしょうね……

共同募金は、寄附者の自発的な協力を基礎とするものでなければならない(社会福祉法116条)

のですが。

町内会の強制募金